語りかけて出した答は自分の中に……
バトン四日目
――残りの時間、どう刻む?
その言葉の主と語っていた。
「行ってきます」
いつものように自転車にまたがる。まだ始業式ではないが、模試を受けるために登校する。今年初の制服を着ていつもの線路を渡る。毎日見上げているはずの青空が清々しく感じた。
視線を元に戻すと信号を待つ見慣れた少年の姿があった。
いつも私の自転車を抜かすK君だった。
信号が変わり、恐ろしいほどのスピードでペダルを漕いでいく彼を後ろから見送り、私はゆっくりとペダルを進ませた。
学校に着くと、いつもの駐輪場にはいつもの場所にMの自転車があった。
年賀状の代わりにメールを送ったとき、『今年は自転車勝つよ!』と送ったら『7時までに行ってやる〜』とのこと。まさかの宣戦布告に驚いた。そして今日の結果を見て、一人笑った。
駐輪場から靴箱に向かうと、マリアらしき人が正門から入ってくるのが見えた。
珍しく早いと思いながら、距離のある靴箱に向かう。
教室に着くと模試の支度のために、荷物を廊下に出す。すると、いつもの私の荷物を置く位置に将棋があった。首を傾げ、よくよく見ると見慣れた姿をしていた。司書室にあったあの将棋だ。
おそらく、補習最終日に司書室から出したから、そのときI君が置いたものだろう。
廊下で立ちながら、持っている勉強道具を何をするわけでもなく手探りに読んでは、積み上げたりしていた。そして、廊下を通る他のクラスの友人や、クラスの子に声をかけた。
「M〜!M〜!やっぱ駄目だった!ちょっと集合」
一番奥のクラスで先生が呼び掛けているのが聞こえた。リスニングの準備をしていたのだが流れなくて、聞きたくて呼んだと、そんなところだろう。
私は素知らぬふりして、また自分の荷物を管理していた。
「舞風?」
「はい?」
突然の声に驚いた。
クラスも違えば、私の出る幕でもないはずだ。
「お前にも任務を命じよう」
それを聞きながら先生の横でMはずっと笑っていた。
「芸術科の黒板に、出席、点呼は32HRって書いといて」
31HRに入ると、まず、みんなに驚かれた。
中には、『乗っ取りが始まったかと思ったよ』と笑われた。
私は、『違うよ〜、あけましておめでとう』と笑った。
模試が始まると、教科によって時間のバランスが違う。余ったかと思えば全く足りなかったり……
模試が全て終わり、自転車を走らせる。
大分漕ぐと、また聞きなれた自転車の音がした。
またいつも朝に抜かす彼だった。今度は、朝のように恐ろしいスピードというわけではないようだ。
家に帰ると祖母がすぐに話しかけてきた。
「今、お母さんたちカラオケ行ったよ」
「はい?」
家族でなんてカラオケなんか行ったことはない。どういうわけかと思い、尋ねると例のはとこが今度こそいると思ってまた来たそうな。
「で、会員証は誰が……?」
「お母さんつくったって」
へっ?またまた意外だった。
そうこうしているうちに携帯から電話があった。
「彼方、来る?」
「行かない」
「本当に?Mちゃん来てるよ」
「時間どのくらいなの?」
呆れて尋ねた。
「4時間」
「無理」
即答で答えた。
母はしぶしぶ電話を切った。
しばらくするとまた、電話があった。
「もしもし?」
「彼方か?今、カラオケ」
「そう、じゃ」
電話を切ろうとした。
「来い」
意外な父からの誘いに呆れた一言。
「はい?」
「来い」
「無理」
「いいから」
「時間ない」
そう言って切った。
後ろではおじさんの笑い声が聞こえた。
そうとう飲んでいるらしい。
でなければ考えられないことだ。
(それが君の刻む時間かい?)
そんな声が聞こえた気がした。
(そうだよ)
自分に言い聞かせる。
(今日一日を振り返ってごらん)
私は少し考えてみた。
何のために今までペダルを急がせていたのだろうか
(おそらく朝の時間を節約するためだけではない)
(だからそれに気づけば意味があるはずさ)
友達との何気ない会話にどれだけの時間を費やしたことか
(君の何のために時間を使う?)
何度時間がないと思ったことだろうか
(時間は初めから存在するのに)
どれだけ時間を持て余していただろうか
(どれだけ自分の為に尽くさなかったのか)
遊びには行きたいとは思うけど
やらなきゃいけないこともある
(それは何のため?)
それは……
(その場しのぎはよくないよ)
(時は一定の時間を歩むから
君たちは意味のある人生を
永遠の針はいつまでも
同じリズムで進むから
終焉の針がゴールに着く日
それは必ず来るものだから
同じ人生は歩めない
この同じ時は歩めるから
見えない文字盤
見えない針
確実に刻まれて……
刻まれる間に
歩む理由
そして本当に残るものは……
それを、どうか……)
自分の中で少年と語りかけた。
私にとって時を歩む理由は――
その答えを出すと、彼が笑った気がした。
今は、語るには若すぎるかもしれない。
なんだか明日の模試で頑張れそうな気がした……。
†
バトンで時の少年が担当だったのですが、こんなんでいいのかわかりませんがお許しくださいm(_ _)m一応日記なのでいつも通り今日の話です。
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